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  • 田嶋 麻里江

【世界から】シンガポール、〝無人〟、でもアットホームなレストラン


「お腹がすいたね。そろそろ〝デリバルー〟する?」

友だちとの集まりや家族と過ごす休日、仕事仲間とのミーティングの際…、シチュエーションを問わず、かなりの頻度で私が発する言葉である。

▼デリバルーとは?

「デリバルー(Deliveroo)」とは、オンライン・フードデリバリー・サービスを提供する英国発のスタートアップ企業。提携先のレストランやファストフード、カフェなど飲食店の出前を専門に請け負う宅配業者だ。

利用法はとてもシンプル。ユーザーがウェブサイトやアプリから配達先の郵便番号を入力すると、オーダー可能なレストランが表示される。ほとんどが配達先から2キロ圏内の店だ。その中から希望店のメニューを選び、クレジットカードで決済する。店の混み具合にもよるが、多くは決済完了から15分後~1時間以内に契約ライダーたちがスクーターや自転車で家まで届けてくれる。配達費は3シンガポール・ドル(約240円)前後と決して高くない。

中でも、助かるのは大人数のとき。外食文化が浸透している当地シンガポールでは、レストランに行ってもすぐに人数分のテーブルが確保できないことも多い。それ以前に、車やタクシーに分乗して出かけるのが結構面倒である。週末であれば渋滞に巻き込まれたり、マイカーで行っても駐車場の空き待ちの長い行列に遭遇…なんて悲劇的なことに。しかし、デリバルーを利用すれば、時間をより有意義に使える。一石二鳥どころか三鳥、四鳥なのである。

デリバルーは台湾系米国人ウィル・シュー氏が、幼なじみのグレッグ・オルロフスキー氏と2013年に設立した。当時、モルガン・スタンレーのロンドン支店に勤務していたシュー氏は、夜遅くまでオフィスで働いた時に食事の選択肢が極めて少ないことに不便を感じ、起業を思い立ったという。創業時は、シュー氏自らスクーターで配達作業を行っていたそうだが、現在は世界14カ国の200を超える都市でサービスを提供するビッグビジネスとなっている。

▼〝無人〟レストランがオープン

そんなデリバルーが、3月12日に新しく〝無人〟レストラン「Deliveroo Food Market(デリバルー・フード・マーケット)」をオープンしたと聞き、早速行ってみることにした。

場所はシンガポールにおけるデジタルメディアの中核地、メディアポリス@ワンノース地区にある複合オフィスビル「ALICE@MEDIAPOLIS」の1階だ。

南西部のワンノース地区は、政府主導で01年より高付加価値産業の拠点として世界最先端の研究施設とビジネスパークの整備を進めている街区。203ヘクタールの敷地にバイオメディカルや情報通信技術などに関する著名な科学者や先端技術などのベンチャー起業家たちが集まり、官民が連携し研究開発を行っている。ドローン飛行区域や自動運転タクシーの一般客向けテストエリアに指定されたりと、当地を代表する最先端技術の集積地となっている。

そんなエリアにふさわしく、デリバルー・フード・マーケットでは、サンフランシスコで無人レストランを2店舗運営する米系企業「eatsa(イーツァ)」の自動化システムを採用。このシステムでは、注文から決済まで店内の専用端末で行い、オーダー品の受け渡しは備え付けの受け取り用ボックスを利用する。オーダーした料理が準備されると受け取り用ボックスの一つに入れられ、そこに注文者の名前が表示される。自分の名前があるボックスの扉を2回タップして取り出す仕組みだ。従って、キッチンで調理を担当するスタッフのみでレストランの運営が可能となる。40席のダイニングスペース内にスタッフの姿が一切見当たらないため「〝無人〟レストラン」と呼ばれているのである。

「提携する飲食店の出前専門宅配業者」という自社の事業コンセプトに最新システムをうまく取り入れたデリバルー・フード・マーケット。所有する10のキッチンブースに提携先の複数の飲食店から調理スタッフを派遣させて、日本料理やギリシャ料理、ベトナム料理などさまざまなメニューを提供している。料理の平均価格帯は11シンガポール・ドル(900円)前後で、「庶民の台所」される屋台街のホーカーセンターよりは高めだが、レストランよりは手頃感のある設定だ。

実は、デリバールーの実店舗はこれが初めてではない。昨年、香港で同コンセプトの店を既にオープンさせ、当地では配達用に特化したシェアードキッチン店舗が2店開設されている。この内の1店に20席の飲食スペースを設置し、これが好評だったことから、「ALICE@MEDIAPOLIS」店では席数を倍の40席に増やし、店内で食事をする客をメインターゲットにした。

▼客層は想定外

実際に店を訪れてみた。「デジタルメディアの中核地にオープンした最新テクノロジー満載の〝無人〟レストラン」と聞いていたので、メディア関係者や研究者といった流行に敏感な若者が主たる客層と思っていた。しかし、予想は見事に外れ、家族連れや中高年層の利用者も多かったことに驚いた。

息子夫婦、孫たちを連れて、3世代で来店していたレイモンドさん(70代・男性)にお話を伺ったところ「ここはさまざまなレストランのメニューが注文できるので便利。孫はハンバーガー、息子夫婦は洋食、そして私たちはローカルフードと好みは違うが、ここなら一緒に食事を楽しむことができるからね。」と笑顔で答えてくれた。

また、友人と男性2人で食事を楽しんでいたデイビットさん(40代・男性)は「各レストランのメニューが手頃な値段で楽しめるのがいいね。」とのこと。テークアウト用に来店したというダニッシュさん(30代・男性)は「店内に専用端末が5台あるので、仕事中でも待ち時間なく注文できるのは助かる。通常のお店だと、レジスタッフは一人しかいないからね。」と感想を聞かせてくれた。

創業時は契約したレストランの出前のみを請け負っていたスタートアップ企業デリバルー。

それから5年余り。当時の事業コンセプトを発展させ、彼らが作り出した〝無人〟レストランは、筆者の想像を覆し、さまざまな客層から支持されるアットホームな飲食店となっていた。

食品・飲料業界の人手不足問題が深刻化しているシンガポール。客数も多くセールスも好調なのに、人手不足で廃業に追い込まれる飲食店が後を絶たない。しかし、このシステムを利用すればホールやレジのスタッフが不要で、調理スタッフさえいれば新たな市場を開拓できる。客にとっても店にとってもウィンウィンの関係となっているデリバルー・フード・マーケット。逆風に負けない斬新なアイデアと最新の技術が、当地をはじめ世界中の食品・飲料業界の可能性を広げてくれるに違いない。

(シンガポール在住ジャーナリスト田嶋麻里江=共同通信特約)

5月7日 共同通信47ニュースから

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