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  • 寺町 幸枝

【世界から】3度目の五輪も黒字化目指す 米・ロサンゼルス市、徹底した環境対策で


9月23日にニューヨークで開かれた国連の「気候行動サミット」。話題の中心になったのが、授業をボイコットして温暖化阻止を求める若者たちによる世界的運動の火付け役でもある16歳のグレタ・トゥンベリさんだった。住んでいるスウェーデンから二酸化炭素(CO2)を排出しない「ゼロエミッション」のヨットでやってきたグレタさんが温暖化対策の即時実行を求めて各国の指導者に「私たちを失望させる選択をすれば、決して許さない」と言い放ったのだ。

このスピーチも相まって、サミット自体は大きく注目され、世界規模で大きな話題を呼ぶことになった。アマゾンの森林火災や北極圏における氷の融解を始め、地球温暖化がいよいよ深刻さを増している。環境問題への対策が急務と言われている昨今、米国では国と州、基礎自治体といった各レベルでその施策にムラがあるのも事実だ。そんな中、ロサンゼルス市が突出していると表現しても良いほど積極的な環境対策で注目を集めている。

▼全米の市長が結束

気候変動に関する国際的な枠組みである「パリ協定」が採択された2015年より前から、気候変動に対応した政策を積極的に行ってきたのは、州や群よりもさらに基礎自治体の「市」や「町」であった。そんなリーダーの中でもひときわ存在感を放つのが、ロサンゼルス市のエリック・ガーセッティ市長だ。

13年に就任したガーセッティ市長は、気候変動対策を積極的に講じる全米407人の市長たちを束ねる「Climate Mayors」の共同創設者であり代表である。都市の経済規模では東京、ニューヨークに続き世界で3番目の規模を誇るこの大都市が、大胆な環境対策を踏み出している。

ガーセッティ市長の政策として代表的なものが、天然ガス火力発電所についてだ。同市内にある三カ所の改築計画を白紙に戻すだけでなく、29年までに停止させる英断を今年2月に下したのだ。天然ガスによる火力発電所は、二酸化炭素量排出量が石炭や石油より少ないとはいえ、「パリ協定」を実現するためには早期に天然ガスを除外する必要があると判断してのだという。

米国のビジネス誌「ファスト・カンパニー」の記事のよると、20年までに太陽光と風力による発電コストは、石炭や石油といった化石燃料を利用した発電コストよりも「安くなる」という。さらに、蓄電技術の高まりやバッテリーの価格低下も期待できるため、ロサンゼルス市の描くプランは決して不可能ではない。

▼再エネで五輪運営

「タイム」誌の記事によれば、カリフォルニア州は20年内に達成としていた「33%を再生可能エネルギー(以下、再エネ)に変換する」という目標を、2年も早い18年に成し遂げている。その達成の中核にあるのがこのロサンゼルス市だ。人口400万人が住むロサンゼルスは、今年100%再エネによる電力供給を行うと宣言した全米中の自治体の中で最大の都市でもある。

ロサンゼルス水道電気局(LADWP)は25年までに、電力配給の55%を再エネ由来のものにすることを目指しているが、専門誌の「パワー・エンジニアリング誌」は、すでに40%近くが水力や風力、バイオマス、太陽光といった再エネを由来するものになっていると報じている。

そんな高い目標を掲げるロサンゼルス市で、28年に行われるのがオリンピックである。「新施設建設一辺倒」だったこれまでの五輪に対して、「開催地に今あるものを使って」という環境に配慮した時代を反映したコンセプトを掲げているのが、最大の特徴だ。さらに、急速に再エネ利用への転換を行っていることで開催時には100%再エネによる電力を利用した運営が可能だと見込まれている。

世界的に知られる同市内のひどい交通渋滞についても対策を講じつつある。ガソリンなどを使用する自動車から、電車や電動バスといった公共交通機関へ転換を促すための膨大な投資を実施することで市民の生活を大きく変えようとしているのだ。加えて、ライドシェア(相乗り)が進むロサンゼルスでは、車や自転車の相乗りだけでなく、飛行機やヘリコプターの移動が今後一般化するとみられている。加えて、ライドシェアの手段となる車なども電気中心になるという。

ロサンゼルス市は1950年に比べると人口がおよそ100万人増えたにもかかわらず、2017年の二酸化炭素の排出量は08年のベースラインから何と40%も削減したことがわかっている。こうした驚くべき成果を可能にしているのは、技術と知恵を持つ企業を積極的に巻き込んでいる点だ。

市のウェブサイトやイベントを通じて、民間企業やNPOと市民を直接つなぐことで、計画を急ピッチで推し進めることに成功しているのだ。また、環境問題の影響が受けやすいにもかかわらず、再エネ導入にもっとも関心が低くなりがちな「低所得者層」へ無料で太陽光パネルの取り付けを行うほかに、環境に配慮した「エコハウス」を住居として格安で提供するなどしている。

ところで、ロサンゼルス市は1928年と84年に開催した2度の五輪でいずれも「黒字化」に成功している。6月の「LAスポーツサミット」でガーセッティ市長は「28年大会では、最低でも10億ドル(約1083億円)の利益が出るだろう」との見通しを語っている。ロイターの報道によれば、スポーツビジネスがロサンゼルス市にもたらした税金を始めとする収入はすでに、3億2700万ドル(約354億円)にもなるという。

こうしたことからも分かるように、ロサンゼルス市はスポーツの祭典である五輪を一つのきっかけとして、「収入増」と「環境対策を講じる市への転換」という、矛盾するように見える二つの目標を大胆に両立させようとしている。同時に、国のリーダーが支持しなくとも基礎自治体の首長が強い思いと指揮力を持って政策を推進すれば、大きな変化を遂げられるということを私たちにまざまざと示してくれてもいる。

現実に目を背けることなく、打つべき対策を果断に進めていくロサンゼルス市の動きにこれからも注目し続けたい。(ジャーナリスト、寺町幸枝=共同通信特約)

共同通信 47ニュース 2019/10/23 配信


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