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  • 斎藤 淳子

【世界から】中国 「家族プロジェクト化」する結婚


近年、中国の「結婚のカタチ」は激変し、そのハードルは上がる一方だ。一部の農村では政府も警戒するほど結納金が高騰し続けている。中国の結婚に一体何が起きているのか? 北京からリポートする。

▼法外な結納金

春節に中国北西部の甘粛省に里帰りした後に出稼ぎ先の北京に戻ってきた王さんは、現在は中高生の息子2人が将来する結婚について早くも頭を抱えていた。「毎年値上がりしている結納金は、今年帰ったら、18万元(約300万円)になっていた。せめて10万元(約165万円)ぐらいならどうにかなるが、二人分もどうしたらいいの…」という。

確かに、18万元と聞いて私ものけぞってしまった。これは去年の全国の農民平均年収(1万4600元=約24万円)の12年分以上にあたる。王さんが結婚した20年前は400元だったというから、450倍になっていることになる。大きすぎる負担だし、異常な高騰ぶりだ。ちなみに日本では結婚の際に女性の家に結納金を贈る人は少なくなりつつあり、贈る場合でもせいぜい月給の3倍ぐらいという。

一方、中国ではこの数年、結納金が高騰し話題になっている。2016年には「全国結納金地図」がネットで出回り、政府も今年1年の政策指針を示す「中央1号文書」の「農村ガバナンスの整備、農村社会と安定維持」で「法外な結納金」などの悪しき社会的風習に対策を講じるよう求めている。地方政府によっては、具体的に結納金の限度額を「平均年収の3倍以内」や「6万元(約100万円)以下」などに定めるところも出てきている。政府がいうように、放っておけば「農村の安定」を脅かす深刻な問題だ。

中国における結納金の習慣は2000年以上の歴史があるという。だが、メディアで高額結納金の問題が報道されるようになったのは2015年前後からで、高騰し始めたのはさらにその前の13年ごろだ。広大で多様な文化や風習がある中国では結納金の形式や額も千差万別。とはいえ、一つ共通するのは、男尊女卑の封建的風習が色濃く残り、辺鄙(へんぴ)で貧困な地域ほど高騰ぶりが深刻な点だ。

中国の農村開発専門家は「貧困地域には女性が嫁に来たがらないので、その分、結納金を高くするしかない」と説明する。だとすると、結納金の高騰は貧困問題の裏返しとも言える。貧困農村は貧しいがためにかえって多額の結納金を求められるという二重苦に直面している。

そして、この悪循環をタイミング悪く加速しているのが、男女人口の不均衡だ。周知のように、中国では人為的に人口を制限した「一人っ子政策」の結果、男尊女卑の伝統が強い農村では男児の出産偏重が起きている。女児を間引く家庭が多いためだ。

09年末に中国社会科学院が公表した「2010年社会青書」に、08年時点における、1989、94、99、2004年からのそれぞれ5年間に出生した男女比が出ている。女児の出生数を100としたこの調査によると、114、116、121、123。正常値は103~107とされるので、時代を追うごとに男児が増えていることが分かる。つまり、1990年代以降に男女バランスは加速的に崩れたのだ。その90年代生まれが近年、婚期を迎えている。結納金の高騰時期とほぼ重なる。

▼「さっさと済ますべき任務」

次に、中国の伝統的結婚観について振り返ってみたい。というのも、国営中央テレビ(CCTV)が2015年に放映した「新聞調査」番組で目にした甘粛省の厖建竜さん(27歳)の結婚観があまりに異質なものだったからだ。

「頭がおかしくない女子なら誰でもいい」

結婚紹介人に結婚相手の条件を聞かれた厖さんは一言そう答えたのだ。また、厖さんのように地方から出稼ぎに出る若者たちの典型的な結婚スケジュールは出稼ぎから里に戻っている春節前後の数週間だけ。その間に婚活と結婚式を終わらせるという。まるで、結婚は家の義務として「さっさと済ますべき任務」のようだ。北京などの大都会や日本で見る個人同士の意志や恋愛に基づく結婚とあまりにもかけ離れており、ショックを受けた。

貧困農村で結納金は高騰している。春節休み中に出稼ぎ先から戻り、3年目となるお嫁さん探しをする厖さん(右)=CCTV「新聞調査」より

倹約して息子のために家を建て、結納金を準備し、お嫁さんを探す―。彼らが育った伝統的な中国の農村では、これが親の役目とされる。その分、息子は結婚して子を作り将来は親の老後の面倒を見る。

一方、娘を持つ親は結納金を受け取ることになる。これは、「娘をあげる」男性の家からこれまでの養育費と親自身の老後保障代としての意味があるという。結納金の額は娘の価値と婿の経済力を表すとされているので、多いほどメンツが立ち好ましい。近年、結納金の高騰が止まらない原因に男女の数のアンバランスと同時にこうした「メンツ競争心理」を指摘する声もある。

社会保障が未整備で貧しく厳しい社会で生き抜くためなの方法なのかもしれないが、こうした農村の伝統的な結婚は子づくりと親の老後保障を目的とする「家と家」による「家族プロジェクト」だ。よく見るとそこには「独立した個人」は不在だ。

▼都市部で見られる伝統回帰

驚くべきことに、こうした「家と家」の伝統的な結婚観は華やかな都市部でもここ10年ほどで急速に浸透している。1980年代に北京で生まれた、おしゃれなキャリアウーマンの張さんは「私たち80年代生まれの結婚では、男性が住宅を購入して提供するのは当たり前。なぜなら、女親たちは依然、娘は外に行く弱者だから男に物質的実力(住宅購入)によって、将来的に自分の娘に物質的な苦労をさせないことを証明させようとするからね」と語る。当事者の意志不在で、親が婿候補の「動物的な」生存能力をテストするかのような物言いで、何重にも違和感が残る。

一方、張さんより一つ上の世代の70年代生まれたちが結婚した2000年代当時は、住宅所有条件は希薄で住宅は将来2人で努力して購入するものだった。実際、不動産の高騰前にはそれが可能だった。

ところが、2000年代中盤以降から不動産価格は概算でも4~5倍以上に高騰した。あおりを受けて、新婚夫婦だけの住居購入は不可能に。その影響で一人っ子の親たちからの財的支援が不可欠となる。結果、新婚夫婦の不動産購入は次第に「家族プロジェクト」と化し、結婚はその付帯物のような位置づけとなった。親は子供の結婚話に介入し、「男は家を持ってこそ結婚可能」という封建的農村の「家と家」の結婚ルールが都市部でも浸透していった。こうして、結婚前に両家がテーブルを囲んで話す最も重要な話題が「新居の不動産名義」についてという「残念な」結婚風景が生まれた。

▼現代中国社会と家の結婚:

このように、過去10年で中国における「結婚のカタチ」は大きく変わってしまった。その犯人としては、「男女人口の不均衡」という動かしがたい負の遺産にだけでなく、将来の不安から子供に注視する親たちの存在も挙げられるのではないか。

住宅価格や医療費の高騰に加え、養老保険を始めとする老後の保障などが未整備な中、多大な不確実性をはらみながら急速に発展、変化する中国社会。一人っ子世代の親たちは将来や老後の不安から、子供の結婚をかつての老後保障を兼ねた「家族プロジェクト」に回帰させ、「住宅購入」や「法外な結納金」を結婚の絶対条件に掲げるようになったのではないか。

物にこだわり、相手にばかり多く求める結婚には幸福も発展も宿らないにもかかわらず。若者よ、自分の結婚を取り戻せ!(北京在住ジャーナリスト、斎藤淳子=共同通信特約)

共同47ニュース 2019年3月19日配信分


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