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  • 海野 麻実

【世界から】初の政権交代から約3カ月たったマレーシアの現状は


「この国にも民主主義が生きていた!」

5月に行われた下院選挙の結果、1957年の独立以来、初となる政権交代が実現し、当時92歳のマハティール氏が首相の座に返り咲いたマレーシア。結果を受けた国民はお祭り騒ぎで、高齢宰相の復活を祝い、世界でもその熱狂が報じられたのは記憶に新しい。

国民の熱狂ぶりを最も感じたのが、下院選から1カ月ほどたった6月半ば。イスラム教のラマダン(断食)明けを祝う「ハリラヤ」の祭りだった。マレーシアでは、1カ月に及ぶ断食明けに自宅などを開放して客をもてなし、宗教問わずに祝う「オープンハウス」という習慣がある。道端の屋台街もマレー風の焼きそばやたっぷりのスパイスで煮込まれたチキン、色鮮やかなスイーツを楽しむ人たちで大混雑していた。

中でも人気を集めていたのが、一般開放された首相公邸の「オープンハウス」。多くのごちそうが無料で振る舞われるとあって、バスや電車をわざわざ乗り継いで毎年やってくる人も珍しくない。とりわけ、今年は「マハティール首相復活」に興奮冷めやらぬ人々が大挙して集まり、大騒ぎとなった。筆者もマハティール氏の姿を一目見ようと会場へ向かったのだが、まるでハリウッドスターがやってきたかのごとく熱狂するマレーシア国民の勢いに、すっかり圧倒されてしまった。予想されていた5万人をはるかに超える約8万人もが詰めかけ、一人一人の握手に応じていたマハティール首相夫妻も途中で切り上げなければならないほどであった。

マハティール首相との握手を求める汗だくの群衆にまみれながら、その列に加わってみたのだが、あえなく時間切れ。もはや列の体すらなしていない人の群れの合間を縫って、カメラの望遠レンズで「野鳥の会」よろしく、マハティール首相の姿を拡大して確認するのが精いっぱいであった。夕暮れが近づいたころ、「首相はみなさん全員と握手をしたかったのですが、残念ながら今年はこれにて終了です!」とのアナウンスが首相公邸に響き渡ると、会場からは大きなため息が。しかし、握手はダメでもまだ諦めきれないのだろう、その場を後にするマハティール首相夫妻を目掛けて押し寄せた大群は、首相らが乗った車に向かって突進。スマートフォンやカメラを車の窓ガラスにまで押し当ててその姿を少しでも収めようとする様子に、けが人が出るのではないかと内心ハラハラした。

マハティール氏の首相復活による国民の熱狂は、「ハリラヤ」だけでは終わらない。実は今、マレーシア国民の関心事はマレー版“爆買い”に移っている。マハティール首相は選挙公約通り、日本の「消費税」にあたる「物品・サービス税(GST)」の税率を6月1日に6%から0%に実質的に廃止することを表明。9月からは「売上税およびサービス税(SST)」が限定的ではあるものの再導入されるため、6月から8月までの3カ月間は一時的な「タックスホリデー」(免税措置期間)となる。このため、自動車や家具などの駆け込み需要に拍車がかかっている。知人のインド系マレー人の男性は、これまで車を買う余裕はなくバイクで長距離を通勤していたそうだが、この免税期間に乗じてついに念願の愛車購入を決意。トヨタか日産の中古車を買うと鼻息荒く話している。

マレーシア自動車協会(MAA)は、SSTが再導入される9月までのタックスホリデー期間中に新車を購入するよう消費者に呼び掛けた。実際に6月の自動車販売台数は前年同月比28.3%増と大きく伸びており、在庫薄で納車が大幅に遅れるという報道も出始めている。

さらに、道路を走ればあちこちで大型家具のバーゲンセールを宣伝する派手なのぼりがはためく。「GST0%セール!在庫一掃!」などとうたうセール会場には多くの人々が押しかけ、免税効果がより強く感じられる高額商品の爆買い現象が。さらに、ドラッグストアチェーン店などでも、常備薬やサプリメントなどの買いだめが生じており、在庫薄が顕在化してきている。

マハティール首相の誕生以降、どこか浮かれた雰囲気に包まれているマレーシアだが、足元では前政権の汚職などで約27兆円に膨らんだ債務を粉飾していた疑いも指摘され、政府系ファンド「1MDB」をめぐる巨額の資金流用疑惑でナジブ前首相は逮捕、起訴されている。タックスホリデーでにぎわうなか、税収減を輸出入時の関税で調整しようとする動きも報じられており、マレーシアが直面する正念場はこれからやって来ることになりそうだ。(マレーシア在住ジャーナリスト、海野麻実=共同通信特約)

共同通信社 47ニュース 2018年8月26日配信分


https://this.kiji.is/404531019979441249



#マレーシア #マハティール #ハリラヤ

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