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  • 岩本 順子

【世界から】半世紀でバレエ都市に 独ハンブルクを変えた米国人


ドイツ北部における経済の中心であるハンブルク。ちょうど1年前、新しいシンボルとなるコンサートホール「エルプフィルハーモニー」の落成で音楽界の話題をさらったこの街にはもう一つの顔がある。世界有数のバレエ都市でもあるのだ。この街を拠点とするハンブルク・バレエ団は、今や世界トップクラスのバレエ団だ。カンパニーを率いるのは米国人芸術監督のジョン・ノイマイヤー(78)。故モーリス・ベジャールと並ぶ現代バレエ振付の巨匠で、今なお第一線で活躍し続けている。

 年明けに、ハンブルク・バレエ団が演じる「ドンキホーテ」を同バレエ団が本拠を置くハンブルク州立歌劇場で見た。この日の主役は注目の日本人ソリスト・菅井円加とウクライナ人プリンシパルのアレクサンドル・トルシュだ。約1700人収容の歌劇場は満席。見渡すと、いつも通り熟年や老年の紳士淑女の姿が目立つ。日本では、バレエは若い世代の女性に人気だそうだが、ドイツでは老若男女に愛されるエンターテインメント。カンパニーの熱演に、老いも若きも大喝采を送っていた。

▽多才な振付家

 1970年代初頭のハンブルクは、まだ「バレエ都市」と形容されることはなかった。変化が始まったのは73年。若きノイマイヤーが着任してからだった。バレエを学んでいた彼はロンドン滞在時にスカウトされ、シュトゥットガルト・バレエ団にソリストとして入団。やがて振付家として頭角を現したノイマイヤーはフランクフルト・バレエ団の芸術監督を経て、ハンブルク州立歌劇場と契約してハンブルク・バレエ団の芸術監督に就任した。以来、45年間にわたりハンブルク・バレエ団を率いる。

 古典バレエのベースに、モダンダンスの要素が加わったノイマイヤー作品には、彼の才能と文学や演劇、音楽への深い造詣が結実しており、独特の作風が人々を魅了してやまない。難解という意見もあるが、知的好奇心がくすぐられる。加えて、人間心理を浮き彫りにする演出は現代人の心に響く。160ものレパートリーは、シェークスピア作品、バッハやマーラーなどの音楽作品のバレエ化、聖書を素材とする作品、古典バレエの新解釈、実験的なダンスなど幅広い。ここからも、ノイマイヤーが多くの「引き出し」を持つことがうかがえる。

▽ゼロからバレエ都市構築

 ノイマイヤーの半世紀は、綿密に計画されていたかのようだ。就任したその年にまず始めたのが、一般向けにバレエ講座を行う「バレエ・ワークショップ」。ノイマイヤーは、まず観客を育てようとしたのだ。ワークショップは年に5回ほど開催しており、これまでに200回以上を数える。公開で行われる講座では、ノイマイヤー自身が舞台上で自作を解説し、レッスン着のダンサーたちが解説中のシーンを演じる。クリエイションの現場に居合わせるかのようなユニークさから、チケットは発売直後に売り切れるほどの人気だ。

 75年には「バレエ週間」(バレット・ターゲ)と称するバレエ・フェスティバルをスタートさせた。毎夏、シーズンの主要演目を2週間にわたって日替わり上演するもので、多様な作品を集中的に鑑賞できる機会を提供している。会期中には日本をはじめ、世界各地のダンスファン、そしてノイマイヤーのファンがハンブルクを訪れる。

 78年にはバレエスクールを創立、2011年には若手ダンサー8人で構成されるナショナル・ユース・バレエ団を創設した。振付家も育てなければと、14年からは毎年ダンサーたちの振付作品の発表会も開催している。

 それだけではない。ノイマイヤーはバレエ研究所を兼ねたミュージアムの構想も持っている。自身で収集したバレエ関連資料や美術品のコレクションは、書籍約1万1500タイトル、油絵、彫刻、版画、写真などの芸術作品や資料、約1万1000点に及ぶ。現在は、06年に設立されたジョン・ノイマイヤー財団が管理している。

▽「ノイマイヤー後」はいかに?

 年初に見た「ドンキホーテ」は古典作品だ。ノイマイヤーは自らの作品に加え、優れた古典作品もレパートリーに取り入れている。ノイマイヤー以外の作品で沸く劇場で、ふと頭をよぎったのが、彼の引退後のことだった。 私は彼のバレエを通じて、古典文学やクラシック音楽の面白さに開眼したばかり。これからも彼の作品を見つづけたい。だが、彼のハンブルク歌劇場との契約は来る19年に終了する。契約延長となるか、引退かは未知数だ。就任期間世界最長の巨匠は、今シーズンも新作を世に問い、精力的に働いている。2月2~17日には日本公演が控えている。まだ今は「ノイマイヤー後」を想像できない。(独ハンブルク在住ジャーナリスト、岩本順子=共同通信特約)

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