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  • 南田 登喜子

【世界から】「呼ばれたい名前」が自分の名前 豪州の夫婦別姓事情


法制審議会が1996年に「選択的夫婦別姓制度」の導入を提言してから既に20年以上―日本がすったもんだしている間に、夫婦別姓は世界的に見れば珍しくもなんともないものになった。ここオーストラリアでも、結婚を機に姓を変更するかどうかは、個人の選択に委ねられている。結婚前の姓を使い続けること(夫婦別姓)も、夫あるいは妻の姓を名乗ること(夫婦同姓)もどちらもOK。両方の姓をつなげた複合姓も珍しくない。社会生活の場に合わせて、姓を使い分けることにも問題はなく、結婚後に使う姓を役所に届け出る必要すらない。

改名3回容認も

そもそもオーストラリアでは、不当な目的でない限り、本人が「呼ばれたい名前」を名乗って生きていくことは、まったくの個人の自由とされている。ただし、公的な身分証明書と使用している名前が一致しないと、社会生活においてさまざまな不都合や不便があることは否めない。そのあたりは、日本でも、結婚後旧姓を通称として使用している方々はみな身をもって実感しているだろう。

悪用・詐欺目的でなく、また法律に違反しない限り…という前提において、オーストラリアでは正式に名前を変えることも至って簡単にできる。成人(18歳以上)であれば、各州の「出生・死亡・婚姻登録所」(Registry of Births Deaths & Marriage)へ申請すれば、改姓・改名の登録が可能なのだ。結婚時に、夫婦の姓の一部を組み合わせた姓や、まったく新しい姓を登録しても構わない。

ニュー・サウス・ウェールズ州の場合、所定の届出用紙に変更前後の氏名や理由等を記入し、居住歴等の条件を満たす書類を添付して提出すると、通常は申請後約20日間で公的な証明書が発行される。申請費用は179豪ドル(2017年4月7日現在、約14,900円)。特別な事情がない限り、改姓・改名の上限回数は生涯3回までなのだそう。

 ▽婚姻証明書があれば

 もっとも、単に配偶者の姓や複合姓に変更する場合は改姓を登録する必要はない。国内で結婚した場合に同登録所が発行する「婚姻証明書」(Marriage Certificate)が、公的証明書として使えるからだ。パスポートや免許証等の姓を変更するには、夫婦それぞれの結婚前の氏名や婚姻年月日・場所等が記載されたこの証明書を提示して、「今後は配偶者の姓を(も)使う」と申し出れば事足りる。

 一方、個人の氏名や生年月日、出生地、父母の氏名等を公的に証明する「出生証明書」(Birth Certificate)には、元の氏名が残ったまま。結果的に、本人確認書類が必要とされる時に、出生証明書だけを提示するか、婚姻証明書を提示するかによって、夫婦別姓・同姓のどちらも選べることになり、片方に統一されていないこともままある。

夫婦別姓を実践

かくいうわたしもオーストラリアで夫婦別姓をやっている。自分自身を「南田」と認識し、公私共にすべての活動をこの姓で行っている。事務手続き等が煩雑になるのを避けるため、免許証や保険・金融関係、資格証明書等すべて統一しているので、社会的にも「南田」だけで認知されている。

日本の戸籍は……というと、「報告的婚姻届」と呼ばれる方法で、日本人の夫とオーストラリア方式で婚姻が成立したことが登載された。在シドニー日本国総領事館で発行されたパスポートは、「別名併記」の申請をしたため、日本の戸籍上の姓に続いて旧姓が括弧書きで併記されている。併記に関しては賛否両論あるが、ないよりはマシだろう。

ちなみに、配偶者が外国籍の場合の別名併記は、配偶者の姓が括弧の中に入れられる。国際結婚に限り、日本では「夫婦別姓が基本」だからだ。不思議なことに、日本では配偶者が外国人だと、婚姻後6カ月以内に「外国人との婚姻による氏の変更届」なるものを提出すれば、本人の意思のみで「同姓を選択」できることになっている。最終的にどちらの姓にするか決めるまでの猶予期間は半年もある。

生きやすくなる選択

オーストラリアにおいても、慣習として夫の姓を使う夫婦が多数派なのは事実。だが、大事なのは、夫婦に同等の選択肢があり、本人の意思で選べるかどうかということだ。少数派にとって「生きやすくなる」別姓選択オプションがあるのとないのとでは、大違いである。

別姓を望む理由は、自身のアイデンティティー、仕事上の不利益や社会生活上の不都合、家名の引き継ぎ、男女平等の観点、改姓手続きにかかる多大な労力……と、人によってさまざま。選択的夫婦別姓制度は、あくまで別姓を望む夫婦がいれば、それぞれの姓を名乗れるようにしようというものだ。

名前のことに限らず、「自分は違うけど、そういうのもアリだよね」と異質なものを受け入れる寛容さは、オーストラリアに暮らす人々の強みの一つだと思う。移民国家には、「みんなが同じでなければ」というプレッシャーが少なく、多様性を面白がって、ごく当たり前に少数派を尊重する懐の深さがある。

日本でも夫婦や家族のカタチはもうとっくに多様化している。「家族の絆」のあり方も、いろいろあっていいのではないだろうか。(シドニー在住ジャーナリスト、南田登喜子=共同通信特約)

共同通信 47NEWS 2017/4/25配信


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