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  • クローディアー 真里

【世界から】シニアの心つかむ棺おけクラブ NZ、最期まで自主性を


「コフィン・クラブ」―最初、その存在を知った時は驚いた。「コーヒー・クラブ」の間違いかと思った が、そうではなかった。そう、名前の通り、亡くなった時に使う「コフィン(棺おけ)」を、会員が協力し 合って手作りするグループが、ニュージーランドにはあるのだ。2010年、北島のロトルアに発足して以来、少 しずつ支持の輪を広げ、現在、国内では12以上のこうしたクラブで、シニア層を中心とした会員約500人が活 動しているという。

人生の主導権を握る

「ふと思いついたんです。亡くなった時のための棺を自作したいとね」と創設者、ケイティー・ウィリアム ズさんは、コフィン・クラブ開設のきっかけを振り返る。このひらめきが、友人の間で共感を呼び、クラブは 産声を上げた。

クラブには大切な使命がある。会員が最期まで自らの人生の主導権を握れるよう、手助けすることだ。高齢 になると、体の自由が利かなくなる。避けることのできない死も決して遠くない。すべてが徐々に力の及ばな いところにいってしまうような感覚に陥る。せめて葬儀ぐらいは自分流にと、「こんな葬式をしてほしい」と 切り出しても、息子や娘は「縁起でもない」「長生きしてくれなきゃ」と、悪気はないものの、真剣に取り 合ってくれない。

無力感に悩まされていたシニアたちは、クラブに来て、好きなことやもの、人となりを表現した棺を自分の 手で作ることを通して、満足感を得る。葬儀の際、自作の棺で送られると分かっていて、安心できるからだ。

亡くなるまで、自主性を失わずに生きられるという自信を、活動が支えてくれる。クラブに通い、制作に励め ば、死は日常性を帯び、穏やかに向き合うことができるようになる。

また、自作の棺にこだわるのには、もうひとつ理由がある。長年緩和ケアの看護師を務め、幾つもの死に接 してきたケイティーさんは、どんな人でも、それぞれ人生は意義深く、誇るべきもので、パーソナルな葬儀で 逝くのこそがふさわしいと信じている。面識もない葬儀社から提供された、法外に高額で、お仕着せの棺で送 られるなど論外というわけだ。オリジナルの棺は、おのおのの個性を生かした逝き方の一部であり、その人の 生きざまを周囲の人々に語るすべなのだ。

リーズナブルな値段

手作りの棺には、経済的な利点もある。一般的な棺の値段は、1000~1万NZドル(約8万2000~82万5000 円)と、年金生活を送るシニアにとっては非常に高い買い物だ。さらに葬儀代も加わると、自分で用意するの も大変なら、子どもに負担をかけるのも気が引ける。

一方、コフィン・クラブで作ると250NZドル(約2万円)。内訳は、材料費と作業時に使用する工具の維持費 のみだ。年会費10NZドル(約830円)、使用分の電気代を加算しても、とてもリーズナブルと言える。下塗り 加工などの追加オプションも10NZドルで用意されている。

ボランティアの、元大工などが棺を組み立てる。彼らと肩を並べて、形にするところから携わってもいい し、個性的に仕上げるための塗装・装飾作業のみに力を注いでもいい。趣味、長年携わっていた仕事、好きな 俳優や歌手、思い出などを自由に表現する。おのおのの棺には、それぞれの人生のストーリーがある。

交流の場として

コフィン・クラブのスローガンは「誰かが入るまではただの『箱』。けれど、『箱』のうちは、それが私た ちを結びつけてくれる」だ。シニアの人たちは、身内が遠くに暮らしていたり、連れ合いや友人に先立たれた りし、寂しい思いをしがち。クラブは、そんな人たちにとって大切な交流の場になっている。

棺の制作は当事者のみが行うのではなく、周りの会員も、知恵を出し合い、手助けする。終始おしゃべりを 楽しみ、話題が死に及んでも、皆、前向きだ。クラブ活動中、共に笑い、共に涙する。ティータイムやランチ も一緒に過ごす。週に一度会う「家族」に、何か変わったところはないか、調子が悪そうなところはないか と、お互い気遣いを見せる。

ケイティーさんが面倒を見る、ロトルアのクラブに足を運ぶ会員は時には50人にもなる。自分の棺が完成し ても、通い続ける人が多く、新しい会員にアドバイスをしたり、おしゃべりに加わったりして、いつもとても にぎやかだ。

人々を結びつけるきっかけは、暗いイメージのある「死」でありながらも、コフィン・クラブはいつも明る い「生」の喜びにあふれている。(ニュージーランド在住ジャーナリスト、クローディアー真理=共同通信特約)

共同通信 47News デジタルEYE 2月14日配信分

https://this.kiji.is/204130344370947576?c=39546741839462401


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