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  • 栗田 路子

【世界から】欧州の反ポピュリズム活動 失業おばちゃん一座が熱演


ベルギー国境沿いのフランス北東部に、仏版ラストベルト(没落工業地帯)と異名を取る地域がある。トランプ大統領選出の鍵を握ったアメリカ東部から中西部のラストベルトに似ているからだ。炭鉱・鉄鋼・製造業などで欧州の近代工業化を支えたが、急速なグローバリゼーションによって、事業の国外移転や倒産が相次ぎ、大量の失業を生んだ。その地で、今、失業した中高年女性らが演ずる田

舎芝居が注目を浴びている。フランス大統領選を控え、地元の高校生らを前に、草の根の反ポピュリズム活動に一生懸命だ。

▽実話を芝居に

芝居の舞台は、この地域のエナン・ボーモン市にあった旅行かばん工場。主役は元工員で失業したおばちゃんたち。この工場の持ち株会社は、安い労働力を求めて工場の国外移転を決め、2007年、従業員への補償なしに倒産させた。

彼らを使い捨てた持ち株会社のオーナーはアメリカの大富豪ミット・ロムニー氏。2012年のアメリカ大統領選に出馬した共和党候補で、そのプロフィールはトランプ大統領にも重なる。

絶望のどん底にあった失業おばちゃんたちに手を差し伸べたのは、若手辣腕弁護士リロヴ氏。訴訟のために、「ハロー」もおぼつかないフランスのおばちゃん失業者とともに、パリ、ワシントン、そしてロンドンの法廷へ。現在進行形の実話を基に、地元出身の若手脚本家と演出家が芝居に仕立てた。

▽市長に極右

失業者があふれるこの地域は、8000人もの難民がテント村を作ったドーバー海峡沿いのカレー市にも近い。見捨てられているという被害者感情と、よそ者を締め出したい欲求は、じわじわと浸透した。

エナン・ボーモン市では、2015年の地方選挙で、極右の国民戦線(FN)の副党首が市長となった。強い祖国、移民排斥を訴えるFNのマリーヌ・ルペン党首は、この春、フランス大統領の座を狙う。

▽若者に訴える

役者さんたちは、エナン・ボーモン市が生活の拠点。政治の話になれば議論が沸騰し、下手に語ればバッシングの標的にもなりかねない。

「芝居を通じて言いたいのは、ポピュリズム政党のプロパガンダをうのみにせず、問題は何なのか、自分の頭でちゃんと考えてということ」と脚本家のデプランクさん。ポピュリズムとは、民衆の不安や恐怖感などにアピールして、エリート官僚政治や正論を唱えるインテリ層などと敵対する政治手法だ。異質な者へのヘイト感情や強い自国への幻想を煽れば、それがテロ脅威や失業などの問題と直

接関係なくても、頼れるリーダーと感じさせるので票が集まる。失業おばちゃん一座は、有権者の一人ひとりが、政治家の言葉を疑って自分の頭で考えなければ未来はめちゃめちゃになると危機感を募らせる。

そこで、この一座は、地元の公会堂などの上演に加えて、地域の高校(リセ)を巡回する。選挙権を持ち始める年頃の若者に、グローバリゼーションや、失業の背後には何があるのかなどをプレゼン。その後に芝居を見せ、観劇後は出演者や脚本家も加わって、自由なディスカッションを促す。

大統領選を目前に、今、この一座の活動を、仏独共同出資のテレビ局ARTEも、米紙ニューヨークタイムズや英紙フィナンシャル・タイムズも取材に訪れる。

▽「絆」の再構築

「工場で働いていたことは誇りだった。移民出自の人もたくさんいたけど、みんな仲間。孫にも自慢したものよ」と語ってくれたのは役者の一人。

リロヴ弁護士は「係争に持ち込むことや、芝居をすることで、傷ついてバラバラになった同僚が、再び『仲間』になれる。それが付加価値となる」という。

なるほど、見捨てられた人々の耳にポピュリズム・リーダーの威勢のいい過激なプロパガンダは頼もしく響くが、本当に必要なのは仲間と呼べる絆の再構築かもしれない。(ブリュッセル在住ジャーナリスト、栗田路子=共同通信特約)

共同通信 47News デジタルEYE 3月7日配信分:

https://this.kiji.is/211740467659294198?c=39546741839462401


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