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  • 岩下 慶一

安全保障か宗教弾圧か トランプ氏による大統領令の意図


トランプ新大統領が1月27日に出した中東移民・アフリカからの移民・難民の入国を制限する大統領令に全米が揺れている。まず、30日にサリー・イエーツ司法長官代理が大統領令に従う必要がないとの通達を出すと、今度はトランプ氏がイエーツ氏を更迭。ワシントン州連邦地裁が大統領令を一時差し止める判断を下すと、司法省は米連邦地裁に上訴した。これが却下されるとベンス副大統領は間違った判断だと批判、「あらゆる手段を使って覆す」と徹底抗戦を宣言。連邦政府、州政府が睨み合い、全米が真っ二つに割れる異常事態だ。

差し止めの根拠となったのは宗教の自由を保障する合衆国憲法修正第一条だ。イスラム国家7カ国からの入国を禁じるこの措置は、憲法で保障される信教の自由に違反しているというのだ。

トランプ氏はこれを真っ向から否定、大統領令は決してイスラム教徒を排斥するものではなく、国家の安全を守るためのものだと主張し「"Muslim ban(ムスリム排斥)”というメディアの論調は完全に間違っている」と非難した。

大統領令は果たして宗教的排斥なのか? 対象7カ国の選定については疑問の声も多い。ジェロルド・ナドラー下院議員は、「これらの国家からのテロリストが(米国内で)大きな事件を起こしたケースはない」と指摘。7カ国の選択はトランプ氏のイスラム教嫌いから来ているという見方は根強い。

大統領令に宗教的なバイアスがあることを匂わすエピソードがある。トランプ氏は27日、テレビ局、「クリスチャン・ブロードキャスティング・ネットワーク」のインタビューで、キリスト教徒である難民については優先的に入国させるべきだと語っている。理由は「彼らは(イスラム国家で)手酷い迫害を受けたから」だという。難民が直面する困難は宗教とは無関係の筈だが、この辺にトランプ氏の宗教意識が見え隠れする。

信仰問題を差し置いても、イスラム=危険というステレオタイプは米国に蔓延している。ロイターが先月30日に行った世論調査によれば、今回の入国差し止め措置によって米国が安全になったと感じている市民は31%。危険になったと感じる26%を上回っている。メディアは伝えていないが、今回の措置を支持する米国市民は意外に多いのだ。米国内でのイスラム教徒に対するハラスメントのニュースも増えている。トランプ氏の大統領令がこうした風潮を加速してしまったことは間違いない。

共和党の重鎮、ジョン・マケイン上院議員の言葉がこれを端的に表している。「大統領令は、本当の意図が何であれ"米国はイスラム教徒を歓迎しない“という強いメッセージになってしまった」

『週刊金曜日』2017年2月10日号から転載


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