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  • 田中 聖香

世界で急増中のリペアカフェ「修理の楽しさ」が身上


壊れたパソコン、オーディオ機器、コーヒーメーカー。昔は販売店に持ち込めば、安い修理代で直してくれたものだ。「修理するより新品を買うほうが安い」が常識になったのは、いつからだろうか。そして、ほかに選択肢がないという理由で、私たちが罪悪感いっぱいで電化製品を使い捨てするのに慣れてしまったことも。

そんな現代人のジレンマをすっきりと解消してくれるのが、全世界で急速にネットワークを拡大している「リペアカフェ」である。壊れたモノを最寄りの「カフェ」に持ち込めば、修理が可能である限り、ボランティアが無料で直してくれる。2009年にオランダのマルティーネ・ポストマさんが活動を始め、11年から海外にもコンセプトを輸出、同時に財団化した。 リペアカフェの活動目的は、モノを捨てず新品を買わないことで、資源節減と二酸化炭素排出量の削減に貢献することだ。しかし同時に、「修理することでモノをこれまでと違った見方でとらえ、その価値を見直してほしい。そして修理という行為が楽しく、意外に簡単であることを知ってほしい」(公式HPより)と、オルタナティブな価値観も提唱している。

「リペアカフェ財団」はオランダのアムステルダムに本部を置き、非営利団体として運営している。リペアカフェを自分の町で始めたい人は、財団にコンタクトし、49ユーロで「電子版スタートパッケージ」を購入。これは運用ハンドブック、ロゴの使用権、フライヤーやポスターのデータ、リペアカフェ公式サイトへの掲載サービスなどを含むものだ。パッケージの内容通り活動を行い、財団の規約に従う限り、世界中どの国でも「リペアカフェ」の看板を掲げることができる。現在全世界で約1,000カ所の「リペアカフェ」があり、中でも私の住むドイツは300カ所で“最大勢力”だ。日本にも5カ所がオープンしている。

ドイツでは、各カフェの運営母体は環境団体、IT技術者のワークショップ、大学内の同好会など様々だ。カフェといっても喫茶店のように常時オープンしているわけではなく、各団体の活動の一環として、月に1〜2回の頻度で会場を設営してオープンする。毎月の開館日はネット上で告知する仕組みだ。私はさっそく最寄りのカフェを検索し、自宅から15キロほど離れた隣町フィアゼンにカフェをみつけて、何年も壊れたままの目覚まし時計を持って出かけていった。

土曜日の午後3時。会場に入ると、机を寄せてつくった大きな作業台が2つあり、机上にはいろいろな工具、機械、そして修理中のモノが広げられている。机の周りには「修理職人」たちが陣取り、モノの持ち主たちと話をしながら、熱心に手を動かしている。会場の片隅にはケーキと飲み物も無料で用意されており、趣味の会のような雰囲気だ。

4歳のパウリーネがお父さんと一緒に、子供用のポータブルCDプレーヤーを持ち込んだ。3歳の誕生日プレゼントというから、それほど古くないが、CDを入れても作動しなくなったという。「子供が手荒く扱ったからかも」とパウリーネのお父さん。修理担当のヴィリーさんが中を開けてみると、小さな粘土の塊がぽろりと出てきて、一角にどっと笑いが起こる。ヴィリーさんは「単なる接触不良かなあ」と言いながら、手慣れた様子でドライバーを使い、あちこちを点検する。

その隣では、室内用フィットネスバイクの修理が進行中だ。購入して20年、乾電池を入れるボックスの内部に電池の液が漏れ出して、使えなくなった。元電気技師のペーターさんが、ボックス内をきれいにしてからトライするが、うまく通電しない。あれこれ試した結果、「ネットで新しい電池ボックスも買えるが、電源ユニットを取り付けて直接コンセントにつなぐほうがもっといい!」とひらめく。「新しい電源ユニットは10ユーロ(約1300円)程度のはず」とペーターさん。「モディフィケーションですね」と私が言うと、「アップグレードと言ってほしいな」とニンマリした。

こんなふうに、集まった人たちが、和気あいあいと楽しみながら、修理の時間をゆったりと過ごしている。 ここフィアゼンのリペアカフェは2014年9月にオープン。55歳以上の退職者が集まる互助クラブの活動の一環として、元数学教師のヴィリー・ギリセンさんと奥さんのアンゲラさんが中心になって運営している。ヴィリーさんは定年退職後、『修理の文化』という本を読んで修理の楽しさに開眼。その後リペアカフェの存在を知って、運営を始めた。 毎月第1土曜日の午後2時から6時まで、カルチャーセンターの教室を会場として借りている。活動に協力する修理ボランティアは総勢20人。「当カフェのエキスパートたち」とヴィリーさんが誇る彼らは、元電気工、大工、印刷工、IT専門家など、根っからの職人たちだ。チームには退職者だけでなく、現役の会社員もいる。

1回の訪問者数は20人から35 人程度で、 午後2時の開館前には受付に行列ができることもあるという。持ち込まれるのは音響製品のほか、ビデオデッキ、旧型のプレイステーションなど電化製品が多い。家庭用のコーヒーメーカーは、この日だけで3台が持ち込まれた。「どんな製品も、30分やってみたら修理可能かどうかわかります。“成功率”は50%から70%くらいかな」とヴィリーさん。前述のペーターさんは、「ボランティアとはいっても、修理はちょっとしたチャレンジ。でも、毎回4時間が無事終わると充実感でいっぱいです」と話してくれた。

目覚まし時計を預けて取材を始めてから30分余り。突然、パウリーネのCDプレーヤーから童謡が流れ出し、私の目覚まし時計が何年かぶりに鳴った。私だけでなく、みんなが歓声を上げる。 「まだ使えるはず」を基本に人が集まり、修理する側と依頼する側が「直った!」の喜びを共有する。リペアカフェの午後には、環境保護への貢献意識というより、むしろ見知らぬ者同士がひとときの交流を楽しむ、リラックスした心地よさが感じられた。

『環境ビジネス』(2016年3月7日号掲載)https://www.kankyo-business.jp/column/012261.php


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